システム奮闘記:その105

ファラデーの電磁誘導



Tweet

(2016年5月22日に掲載)

磁場の変化による起電力

 1831年、ファラデーが発見した法則だ。  「システム奮闘記:その98」(電気回路入門)でも少し触れているが 復習をかねて書いてみる事にした。
誘導起電力発見のキッカケ
誘導起電力発見のキッカケ
2つの回路があり、片方のスイッチを入れて電気を流すと
離れていた回路に電流が発生した。

その時、ファラデーは回路周辺の磁場が変化すると
電流が発生するのではないかと考えた。

 上図の右側の回路を、磁石に置き換えると以下の現象が発生した。

コイルの磁石を近づけると電流が発生する
コイルの磁石を近づけると電流が発生する
コイルに磁石を近づけたり、遠ざけたりすると電流が発生する現象を
ファラデーが発見したのだ。

これをファラデーの起電力という。

 ところで、この先、話を進めるために、磁束というものを
知っておく必要がある。

磁束とは
磁束とは
磁束とは、面積Sの領域と、そこを貫く磁束密度(B)の積だ。
磁束密度とは、単位面積辺りの磁束になるので、磁束密度というのだ。

 起電力が磁束の時間変化に比例する事がわかったのだ。

起電力が磁束の時間変化に比例する
起電力が磁束の時間変化に比例する
歴史的な流れで、ここでは比例定数Kと置いた。
でも、後の実験などでK=1で問題ないというのがわかったのだ。

 ところで上図には磁力線を描いている。
 ファラデーは、磁束の変化を考える際

 磁力線を考えついた

 のだ。
 電気力線も磁力線もファラデーが考案した物だったのだ。


 ところで起電力の法則を説明する上で、レンツの法則がある。

レンツの法則
レンツの法則
磁石を近づけたり、遠ざけたりする事によって、
面を貫く磁束が変化した時、回路に電流が発生し
磁束の変化を妨げる働きをする。

磁束が変化した際、磁束の変化を妨げる電流が発生する現象を
レンツの法則というのだ。

 人間界では、何か改革を行なおうとすると

 必ず抵抗勢力が現れる!

 自然界でも、何か変化が起ころうとすると

 変化を抑える現象が働く!

 妙な類似点を感じてしまった。


 式にまとめると以下のようになる。 

ファラデーの電磁誘導の式
ファラデーの電磁誘導の式
面を貫く磁束の変化すると、閉回路の両端で電位差(起電力)が生じ
変化を打ち消す向きに電流が流れる。

その関係式をファラデーの電磁誘導というのだ。



ローレンツ力とファラデーの電磁誘導

 ファラデーの電磁誘導。  後の時代になってローレンツ力を使って説明されるようになった。
ローレンツ力を使ったファラデーの電磁誘導の説明
ローレンツ力を使ったファラデーの電磁誘導の説明
磁石を閉回路に速度vで遠ざける際、閉回路内にある電子の立場では
速度vで磁石から遠ざかっている状態なのだ。

磁場B中で電子が速度vで移動するため、ローレンツ力が働くのだ。

 電子にローレンツ力が働いた結果、電流が流れた状態になる。

電子にローレンツ力が働いた結果、電流が流れた状態になる
電子にローレンツ力が働いた結果、電流が流れた状態になる
ローレンツ力が電子に働き、電流が流れる形になる。
この際、磁場の減少を食い止める方法へ電流が流れる。

 ローレンツ力が発見された時には、ファラデーはこの世にいなかったため
ファラデーはローレンツ力を知る事はなかった。

 ローレンツ力によって、磁場の増加(減少)を防ぐ方向に電流が流れる。
 自然界の不思議さを感じてしまうのだ。


ファラデーの電磁誘導の微分形

 今まで説明したのは積分形だ。  ここからは微分形の話になる。  学生時代に使った「電磁気II」(長岡洋介:岩波書店)だけでなく、東京工業大学の資料も参考にした。  電磁誘導(東京工業大学)  そしてお得意の  忍法・丸写しの術  を行なったのだ。
閉回路を細切れにして微小領域を作る
閉回路を細切れにして微小領域を作る
細切れにした1つを取り出し、その部分を見てみる。
微小領域の面積をΔSとする。

 つぎに磁束が変わると電位が発生する事に注目する。

磁束が変わると電位が発生する事に注目
磁束が変わると電位が発生する事に注目
閉回路に起電力が生じるというのは、閉回路上の電場を足し合わせながら
ぐるっと1周すると、電位差が求まるという事になる。

電位差は磁束の時間変化量と同じになる事にも注目する。

2つの式から、磁束の時間変化と、閉回路上の電場を足し合わせの関係式ができる。

 ここで理解しがたい話と出くわす。

 閉回路は導線でなくても良い

 というのだ。

 空間だと、ぐるっと1周した際、電位差が生じる現象が頭の中で
思い浮かべる事ができない。

 違和感がある。理解しがたい。調べていくと慶応の電磁気の資料を発見。

 第V編 変動する電磁場(慶応大学)

P20の内容の引用
2.3 微分形の電磁誘導の法則
§2.2では、円形導体を考え、電磁誘導の法則を説明した。
すなわち、円形導体が囲む面を貫く磁束が時間的に変化するとき、
その磁束変化に応じて誘導起電力が生じることを学んだ。
しかしながら、電磁誘導の法則はこのような導体が囲む面に限る必要はない。
空間に任意の閉曲線が囲む面Sを考え、
その閉曲線Cが囲む面を貫く磁束変化が生じるとき、誘導起電力が発生する。

 いくら考えても・・・

 空間をぐるっと1周して電位ができるのが

 どうしても理解できへん!!

 というわけで、そこから先、動けなくなるのだ・・・。

私を含め勉強が苦手な人の特徴
日常の感覚では理解できない話に出くわしてしまうと
立ち止まり、動けなくなってしまう。
前に進もうとしても、わけがわからんようになり、振り出しに戻される。

勉強のできる人は、上手に割り切って、しかも頭を切り替えられるようだが
私にはできない芸当だ。

 違和感がありながらも、とりあえず無理して前に進む。


 磁束の時間変化と、閉回路上の電場を足し合わせの関係式を微小領域にも適用してみる。
 まずは閉回路上の電場を足し合わせの式を微小領域で考えてみる

閉回路上の電場を足し合わせの式を微小領域にも適用
閉回路上の電場を足し合わせの式を微小領域にも適用
閉回路上の電場を足し合わせの式は、ストークスの定理により
個々の微小領域での足し合わせの合計と同じになる。
そこで1つの微量領域の足し合わせだけ取り出してみる。

 次に微小領域での磁束の時間変化を考えてみる。

微小領域での磁束の時間変化を考えてみる
微小領域での磁束の時間変化を考えてみる
微小領域なので、磁束の時間変化量は一定とみなせる。

そこに微小領域での閉回路上の電場を足し合わせの式を結びつけると
ファラデーの電磁誘導の微分形ができあがる。

 ファラデーの電磁誘導の微分形は導けた。
 だが・・・

 釈然としない導き方なのだ!!

 閉回路が導線でなく、真空中でも成り立つ所に論理の飛躍を感じるし
感覚的にも理解できない。

 それもそのはず。裏には相対性理論が潜んでいるからだ。
 それについては微分形式の所で、ミンコフスキー空間を使うと
ファラデーの電磁誘導の微分形を簡単に導びける話を取り上げています。
 この辺りがスッキリする説明が知りたいのだ。


電磁気学入門の目次
電磁気学入門:目次
スカラーとベクトル 簡単なスカラーとベクトルの話です。
ベクトルは方向と大きさを持つ量。方向という量持っているだけに注意が必要です。
静電気の発見からクーロンの法則 今でこそ当たり前の静電気や導体、絶縁体、電荷など
どういう経緯で発見し、クーロンの法則まで至ったのかの話です。
クーロン力、電場、近接作用 4つの力のうち、クーロン力の位置づけ
電荷が作り出す作用の電場。近接作用の話です。
微分、全微分、方向微分 簡単な微分、全微分、方向微分の話です。
ここをしっかり押さえないと、電磁気の数式の意味が
わからなくなります。
ベクトル解析 電磁気に必要なベクトル解析の話です。
勾配(grad)、2次元のグリーン定理
ストークスの定理の話です。
電位ポテンシャル 電位ポテンシャルです。勾配と電場の関係を使って説明しています。
電気双極子 電気双極子の話です。
物質中で起こる分極を理解するのに必要です。
ガウスの法則 ガウスの法則の積分形、微分形の話です。
ポアソンの方程式、ラプラス方程式 ポアソンの方程式、ラプラス方程式の話です。
単に電荷分布から電位を求めるだけの話にとどまらない
奥が深い分野です。ポテンシャル論、デルタ関数
グリーン関数、固有値問題について触れています。
静電場と渦なしの法則 静電場で、電荷を1周させた時の仕事はゼロ
微分形と微分形の渦なしの法則の話です。
ビオサバールの法則 電気と磁場の関係の発見の話から
ビオ・サバールの法則が導かれるまでの話です。
磁気双極子 磁気双極子の話で、回転電流になります。
物質中の磁場の話にも関連します。
アンペールの法則 アンペールの法則の話です。
積分形・微分形だけでなく、閉回路に流れる電流が作る
磁気双極子の話なども書いています。
ローレンツ力 磁場中を移動する電荷にかかる力(ローレンツ力)の話です。
ローレンツ力は相対性理論が絡んでいる事も紹介しています。
ファラデーの誘導起電力の法則 ファラデーの誘導起電力の話です。
うず電流を使った簡単な物理実験 電力計に使われるアラゴの円盤。
そしてIH調理器で熱するために発生させる、うず電流は
レンツの法則から電流が発生する原理を応用した物だ。

アラゴの円盤の実験と、IH調理器を使った実験です。
気分転換で読んでください。
ベクトルポテンシャル わかりにくいベクトルポテンシャルの話です。
電位は電荷が作る電気のポテンシャルだが
ベクトルポテンシャルは電流が作る磁場のポテンシャルの話です。
オームの法則の微分形 微小領域でのオームの法則の話です。
マックスウェルの方程式 4つのマックスウェルの方程式を書いています。
電場と磁場の変化を図にする事で
rotの回転の意味も理解できます。
ゲージ変換 ゲージ(gauge)は物差しの意味です。
マックスウェルの方程式をE(電場)とB(磁場)の関係式から
φ(電位ポテンシャル)とA(ベクトルポテンシャル)の関係式に
書き換える際、ゲージ変換が使われます。
ゲージ変換の役目を書きました。
電磁波 マックスウェルの方程式から電波が伝わる様子を
視覚的に見てみる話です。
回転のrotはベクトルの微分 ベクトル解析や渦なしの法則で出てくるrotは
ベクトルの微分という話です。
電磁気学の単位系 電磁気学の単位系の話です。
物理量の単位系の指数を見る次元解析
電磁気学の歴史と単位系の変遷について触れました。
電気泥棒:電気と法律の話 電気は物体なのか、無形物なのか。
明治時代に、電気を無断で使った場合、物か、そうでないかで
窃盗罪になるかどうかが裁判で問われました。
ちょっとした科学と法律の話です。気分転換で読んでください。
数ベクトルと基底ベクトル ベクトルの話です。
矢印だけがベクトルでない事。
数ベクトルと基底ベクトルの違いの話です。
多様体、反変・共変ベクトルを理解するのに必要です
多様体 空間を一般化した話です。
▽(ナブラ)の正体に迫まります
外積代数 外積、テンソルについて書いています。
極性ベクトル、軸性ベクトル
外積は行列で、ベクトルは見せかけの姿だった話です。
ベクトルの双対関係 反変ベクトル、共変ベクトル、双対関係
ベクトル解析、外積代数の話
外積、テンソルについて書いています。
ローレンツ力と相対性理論 磁場は電場の相対論的効果だった話です。
ローレンツ力を使って、導線が作る磁場を使って説明です。
微分形式 多様体の話の続きです。
座標に依存しない形での関数やベクトルの微分の話です。
ガウスの法則、アンペールの法則、マックスウェルの方程式が
鮮やかな形で表現できます。
∇(ナブラ)の正体もわかります。
物理と対称性 マックスウェルの方程式をよく見ると対称性があります。
物理の方程式と対称性を数学的な観点でみると
意外なつながりがあるという話です。
マックスウェルの応力 電気力線を弾性体(ゴム)とみなして、力の伝わり方などを
説明した考え方です。
電場エネルギー 電場が持つエネルギーの式を導いた話です。
磁場エネルギー 磁場が持つエネルギーの式です。
手抜きの説明と、直流RL回路を使った説明を書きました。
ポインティングベクトル 電磁エネルギーの流れ「ポインティングベクトル」の話です。
電磁波でもエネルギー保存則が成り立つ話から
ポインティングベクトルを導いています。
電気エネルギーは導線の外を伝わる 導線の外を電気エネルギーが流れる話です。
私が誤解した事、その誤解を解いていく過程を紹介しながら
「目からウロコ」にたどり着いた話です。
物質中の電場 物質中の電場の話です。
分極の話をしながら、物質中の電場の話をします
物質中の磁場 磁性の話をしながら、物質中の磁場の話をします
物質中のマックスウェルの方程式 物質中でもマックスウェルの方程式が成り立つ話です。
導体に侵入する電磁波 導体に侵入する電磁波が減衰していく話です。
表皮効果と同じ「表皮の厚さ」が出てきます
表皮効果 目的の表皮効果の話です。

マックスウェルの方程式を解きながら
交流電流の周波数を上げると、表面にしか電流が流れなくなる話です。



電磁気学の目次:「電磁気学入門」に戻る

前章:「無線LANの基礎 無線LAN入門と導入事例」を読む
システム奮闘記の目次:システム奮闘記に戻る
トップ:オープンソース(OSS)で中小企業のIT化に戻る
v
v