システム奮闘記:その105

電位ポテンシャル



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(2016年5月22日に掲載)

静電場と荷電粒子の仕事量

 いきなり、電位ポテンシャルと言われても、何の事かわからない。  静電場上での荷電粒子がする仕事量(もしくは、される仕事量)の話から 電位ポテンシャルの話をすると見通しが良くなる。  まず「ポテンシャル」の言葉の意味を見てみる。  カタカナだと意味不明だが、英語だと「potential」になる。  日本語訳すると  可能性(潜在能力)  なのだ。  先に答えを書くが・・  貯蓄可能なエネルギーの指標  となのだ。
ポテンシャルを力学で説明すると
力学の場合、ポテンシャルは高さに該当する。
ボール(球)を高い所に物を持っていき、坂道を転がせば
どんどん加速がついていく。

位置エネルギーが運動エネルギーに変換しているからだ。
ポテンシャルは貯蓄可能なエネルギーの指標という感じで捉えれば
捉えやすくなるのだ。

 力学でのポテンシャルはわかった。
 だが、それを電磁気に当てはめて、「高さに相当する」といってもピンとこない。


 だが、次にように書けば、物事は考えやすくなる。

 電場はベクトルであり

 空間内に高い値を示す領域があるから

 勾配にあたるベクトルがある

 言葉だけだと、わかりにくいので、図にしてみた。

電位ポテンシャルは何なのか、電場から推測してみる
電位ポテンシャルは何なのか、電場から推測してみる
電場はベクトルなのだ。
全微分や勾配の話で出てきたが、関数の勾配はベクトルだ。
もし、φ(x,y,z)の関数と、関数の勾配の式に当てはまると
φ(x,y,z)は電場の源になる関数になる。

先に答えを書くが、この時のφ(x,y,z)は電位ポテンシャルというのだ。
このことから考えると、電位ポテンシャルは「高さ」に相当するものなのだ

(注意)
ポテンシャルは「高さ」と言い切ると、語弊が出てくる。
ポテンシャルは潜在力を表わすだけに、間違いではないが
他にも要素があるので、「高さ」と言い切るわけにはいかないのだ。

 数学的に考えたのだが、ここで知らねばならないのは物理的な意味であり
どんな物理量なのかだ。


 そこで物理に電位ポテンシャルが何なのかを見ていくのだが
回り道が必要になる。

 荷電粒子が作る電場、荷電粒子が持つエネルギーの話などをした上で
電位ポテンシャルの話をするのだ。


 まずは荷電粒子が作る電場の話から。

荷電粒子が作る電場
荷電粒子が作る電場
電場とは、電荷によって空間に生じた変化の事だ。
電場の強さは、電荷量に比例し、かつ、距離の2乗に反比例する。

 電場は、他の電荷に対して力の作用を及ぼす。

 距離rの地点で、他の電荷(q2)があったとする。
 その場合、どれくらいの力の作用が働くのか見てみる。

電場は、他の電荷に対して力の作用を及ぼす
電場は、他の電荷に対して力の作用を及ぼす
q1とq2が同じ正電荷(もしくは負の電荷)の場合
q1の電荷から発生した電場は、q2の電荷に作用して
q2を押す力(斥力)を生んでいる。

 q2をq1の方向に近づけるとどうなるのか?
 その場合の仕事量は、どうなるのか考えてみる。

 回りくどい説明だが、これも電位を説明するための準備なのだ。

q2をq1の方向に近づけるとどうなるのか?
q2をq1の方向に近づけるとどうなるのか?
q2をq1に近づけた時、f(r)の力でq2が押されているため
同じf(r)の力で引っ張りあげる必要がある。

ここで疑問になるのは、仕事量がマイナスの符号が付く事だ。
力と距離の積が仕事量なので、f(r)×Δr(微小距離)が仕事量のはず。
必要な仕事量がマイナスとなれば、違和感があるのだ。

(注意)
スカラーとベクトルの所で書きましたが
力はベクトル量で大きさだけでなく向きが重要になってくる。
向きはどっちかで、正・負が決まるため、注意が必要だ。

 なぜ、マイナスの符号が付くのか。
 ここで力の方向と向きの考え方が重要になってくる。

 スカラーではなく、ベクトルで表現してみる。
 荷電粒子の中心とした極座標系で考えると
荷電粒子から遠ざかる向きを正の方向になる。

なぜ仕事量の式に、マイナスの符号が付くのか
マイナスの符号が付くのか
力のf(r)は、外に向かっている力だ。
その力に対抗してq1の方に動かすため、力の向きが反対になるため
スカラー表現だと、力の符号がマイナスというわけだ。

移動のΔrもスカラーの時は符号が見えない。
ベクトルにすると符号が見える。
外に向う方向だとΔrは正の値で、内側の場合、マイナスをつけるのだ。

単なる向きの問題で、プラスかマイナスかの符号がつくだけなのだ。
わからなくなった時は、ベクトル表記にすれば、見通しが良くなるのだ。

 だが、実際の計算で、ベクトルとなれば、めんどくさい。
 スカラー表記のまま計算したい。


 そこで、なぜマイナスになるのか、もう1つの見方があるのだ。

 電荷q2の立場になって見た場合なのだ。
 q2は電場から仕事量をもらうか、奪われるかの違いで見てみるのだ。

仕事量の式にマイナスの符号が付く理由
マイナスの符号が付く理由
q1方向からf(r)の力でq2を押している。
q2は押されると、外側に向かって加速して走ったりする。
q2は仕事をもらっているのだ。

反対にq1に向かっているq2の場合、どんなに勢い良くq1方向に向かっても
f(r)の力で押されて、どんどん減速してしまう。
q2は自分のエネルギーを失っている。つまり仕事量が奪われている事だ。

もらった仕事量はプラス。奪われた仕事量はマイナスと考えれば
合点がいくのだ。

 ここで出てきた

 奪われた仕事量

 が重要な事なのだ。
 そして・・・

 奪われた仕事量は、どこへいくねん?

 なのだ。


 奪われた仕事量は、貯蓄に回るのだ。その貯蓄が何かのかを見ていく。

 まずは点Oから点Pへ移動した時に、q2が奪われた仕事量を求める

点Oから点Pへ移動した時に、q2が奪われた仕事量
点Oから点Pへ移動した時に、q2が奪われた仕事量
q2が奪われた仕事量が求まった。

 そこで点Oが遥か彼方の無限に遠い場所と考える。

 q1が作る出す電場や、q1によって押される力がゼロの地点といえば
無限に遠い場所なのだ。

 無限に遠い場所を基準として、どれだけの仕事量をq2から奪うのか
計算してみるのだ。

無限に遠い場所からq2を引っ張った時に奪われる仕事量
無限に遠い場所からq2を引っ張った時に奪われる仕事量
q2が奪われる仕事とは、q2が無限に遠い場所から、q1からrまで移動する時
必要な仕事量を表す。
q2が奪われた仕事量は、静電エネルギーという形で貯蓄に回る。
力学の時と同様に、エネルギーの保存則が成り立つのだ。

 仕事量が奪われる一方で、静電エネルギーがあがっていく

 力学で出てきた運動エネルギーと位置エネルギーの関係と同じなのだ。


電位ポテンシャル

 回りくどく静電エネルギーやエネルギー保存則の話をした。  これで準備ができた。  電場の中を電荷を引っ張った際、力学と同様に、荷物を引き上げるのと 同じことをしている。
静電エネルギーとは電荷q2のエネルギーの貯蓄の事
電位とは電荷q2のエネルギーの貯蓄
力学の場合、物を引き上げた場合の位置エネルギーは m g hになる。
この時、位置エネルギーの量を決めるのは、持ち上げる物体の質量(m)だけでなく
持ち上げる高さ(h)と、重力加速度(g)になる。

貯蓄可能なエネルギー量の知るための指標に該当するのが「g h」で
物を高く上げる事で、位置エネルギーは増加するし
物を上げる高さは同じでも、重力加速度が大きい木星や土星に行けば
位置エネルギーは大きくなるのだ。これがポテンシャルに相当する。

q1が作る静電場の場合に、外部から荷電粒子を持ってきた場合
荷電粒子が貯蓄可能なエネルギー量の指標が求められる。
それが電荷q1が作る電位ポテンシャルというものになるのだ。

 わかったような、わからんような感じなのだが、電位ポテンシャルは
電磁気の話で重要なので、知らないと、この先に進めないのだ。

 電磁気に限らず、乾電池が1.5Vとか、コンセントの電圧が100Vというのも
電位ポテンシャルなのだ。



 次に電位ポテンシャルと電場の関係式を見てみる。
 話の最初の所で、電場の源になる関数を電位ポテンシャルと書いたのだが
まさに以下の関係式が成り立つのだ。

電位ポテンシャルの勾配は電場
電位ポテンシャルと電場の関係
電位ポテンシャルの勾配は電場と言いたいのだが、勾配は高い方向なので、逆になる。
だが、最初に電場は、正の電荷から外に向かって流れるとしている。
そのため電場と勾配の向きが正反対になってしまうため
勾配にマイナスをつけて、電場を表しているのだ。


 ところで電位ポテンシャルの事を

 スカラーポテンシャル

 と言う。

 その理由は電位は数値で表しているからだ。
 位置エネルギーも同じスカラーポテンシャルになる。

スカラーポテンシャル以外にもポテンシャルがある
スカラー(数値)以外にもポテンシャルはある。
ベクトルで表すポテンシャル、即ち、ベクトルポテンシャルだ。
それについてはベクトルポテンシャルの所で説明しています。


電位、電場の足し合わせ

 ところで荷電粒子は1つだけとは限らない。  近くに複数ある場合だって考えられる。  その場合の電場と電位だが  単純に足し合わせれば良い  のだ。
複数の荷電粒子がある場合の電場の重ね合わせ
複数の荷電粒子がある場合の電場の重ね合わせ
各荷電粒子が作る電場を足し合わせた物が、その位置での電場になる。
電場の場合、ベクトルなので方向を持っている。
なので実際に足し合わせる際は、方向を考慮して計算する必要がある。

 そして電位も足し合わせれば良いのだ。

複数の荷電粒子がある場合の電位の重ね合わせ
複数の荷電粒子がある場合の電位の重ね合わせ
各荷電粒子が作る電位を足し合わせた物が、その位置での電位になる。
スカラーなので、単純に足し合わせるだけで良いのだ。

 ところで、複数の電荷が作る電場を求める際、電場の足し合わせを求めるよりも
電位の足し合わせを求めた後、微分して電場を求めた方が計算が楽なのだ。

 電位の場合はスカラーポテンシャルで方向を持っていない。
 だが、電場は方向があるため、方向を考慮した上で
足し合わせを行う必要があるからだ。

 それを頭に入れておけば、何らかの実験などで電場を求める際、
計算が楽になったりするのだ。


電磁気学入門の目次
電磁気学入門:目次
スカラーとベクトル 簡単なスカラーとベクトルの話です。
ベクトルは方向と大きさを持つ量。方向という量持っているだけに注意が必要です。
静電気の発見からクーロンの法則 今でこそ当たり前の静電気や導体、絶縁体、電荷など
どういう経緯で発見し、クーロンの法則まで至ったのかの話です。
クーロン力、電場、近接作用 4つの力のうち、クーロン力の位置づけ
電荷が作り出す作用の電場。近接作用の話です。
微分、全微分、方向微分 簡単な微分、全微分、方向微分の話です。
ここをしっかり押さえないと、電磁気の数式の意味が
わからなくなります。
ベクトル解析 電磁気に必要なベクトル解析の話です。
勾配(grad)、2次元のグリーン定理
ストークスの定理の話です。
電位ポテンシャル 電位ポテンシャルです。勾配と電場の関係を使って説明しています。
電気双極子 電気双極子の話です。
物質中で起こる分極を理解するのに必要です。
ガウスの法則 ガウスの法則の積分形、微分形の話です。
ポアソンの方程式、ラプラス方程式 ポアソンの方程式、ラプラス方程式の話です。
単に電荷分布から電位を求めるだけの話にとどまらない
奥が深い分野です。ポテンシャル論、デルタ関数
グリーン関数、固有値問題について触れています。
静電場と渦なしの法則 静電場で、電荷を1周させた時の仕事はゼロ
微分形と微分形の渦なしの法則の話です。
ビオサバールの法則 電気と磁場の関係の発見の話から
ビオ・サバールの法則が導かれるまでの話です。
磁気双極子 磁気双極子の話で、回転電流になります。
物質中の磁場の話にも関連します。
アンペールの法則 アンペールの法則の話です。
積分形・微分形だけでなく、閉回路に流れる電流が作る
磁気双極子の話なども書いています。
ローレンツ力 磁場中を移動する電荷にかかる力(ローレンツ力)の話です。
ローレンツ力は相対性理論が絡んでいる事も紹介しています。
ファラデーの誘導起電力の法則 ファラデーの誘導起電力の話です。
うず電流を使った簡単な物理実験 電力計に使われるアラゴの円盤。
そしてIH調理器で熱するために発生させる、うず電流は
レンツの法則から電流が発生する原理を応用した物だ。

アラゴの円盤の実験と、IH調理器を使った実験です。
気分転換で読んでください。
ベクトルポテンシャル わかりにくいベクトルポテンシャルの話です。
電位は電荷が作る電気のポテンシャルだが
ベクトルポテンシャルは電流が作る磁場のポテンシャルの話です。
オームの法則の微分形 微小領域でのオームの法則の話です。
マックスウェルの方程式 4つのマックスウェルの方程式を書いています。
電場と磁場の変化を図にする事で
rotの回転の意味も理解できます。
ゲージ変換 ゲージ(gauge)は物差しの意味です。
マックスウェルの方程式をE(電場)とB(磁場)の関係式から
φ(電位ポテンシャル)とA(ベクトルポテンシャル)の関係式に
書き換える際、ゲージ変換が使われます。
ゲージ変換の役目を書きました。
電磁波 マックスウェルの方程式から電波が伝わる様子を
視覚的に見てみる話です。
回転のrotはベクトルの微分 ベクトル解析や渦なしの法則で出てくるrotは
ベクトルの微分という話です。
電磁気学の単位系 電磁気学の単位系の話です。
物理量の単位系の指数を見る次元解析
電磁気学の歴史と単位系の変遷について触れました。
電気泥棒:電気と法律の話 電気は物体なのか、無形物なのか。
明治時代に、電気を無断で使った場合、物か、そうでないかで
窃盗罪になるかどうかが裁判で問われました。
ちょっとした科学と法律の話です。気分転換で読んでください。
数ベクトルと基底ベクトル ベクトルの話です。
矢印だけがベクトルでない事。
数ベクトルと基底ベクトルの違いの話です。
多様体、反変・共変ベクトルを理解するのに必要です
多様体 空間を一般化した話です。
▽(ナブラ)の正体に迫まります
外積代数 外積、テンソルについて書いています。
極性ベクトル、軸性ベクトル
外積は行列で、ベクトルは見せかけの姿だった話です。
ベクトルの双対関係 反変ベクトル、共変ベクトル、双対関係
ベクトル解析、外積代数の話
外積、テンソルについて書いています。
ローレンツ力と相対性理論 磁場は電場の相対論的効果だった話です。
ローレンツ力を使って、導線が作る磁場を使って説明です。
微分形式 多様体の話の続きです。
座標に依存しない形での関数やベクトルの微分の話です。
ガウスの法則、アンペールの法則、マックスウェルの方程式が
鮮やかな形で表現できます。
∇(ナブラ)の正体もわかります。
物理と対称性 マックスウェルの方程式をよく見ると対称性があります。
物理の方程式と対称性を数学的な観点でみると
意外なつながりがあるという話です。
マックスウェルの応力 電気力線を弾性体(ゴム)とみなして、力の伝わり方などを
説明した考え方です。
電場エネルギー 電場が持つエネルギーの式を導いた話です。
磁場エネルギー 磁場が持つエネルギーの式です。
手抜きの説明と、直流RL回路を使った説明を書きました。
ポインティングベクトル 電磁エネルギーの流れ「ポインティングベクトル」の話です。
電磁波でもエネルギー保存則が成り立つ話から
ポインティングベクトルを導いています。
電気エネルギーは導線の外を伝わる 導線の外を電気エネルギーが流れる話です。
私が誤解した事、その誤解を解いていく過程を紹介しながら
「目からウロコ」にたどり着いた話です。
物質中の電場 物質中の電場の話です。
分極の話をしながら、物質中の電場の話をします
物質中の磁場 磁性の話をしながら、物質中の磁場の話をします
物質中のマックスウェルの方程式 物質中でもマックスウェルの方程式が成り立つ話です。
導体に侵入する電磁波 導体に侵入する電磁波が減衰していく話です。
表皮効果と同じ「表皮の厚さ」が出てきます
表皮効果 目的の表皮効果の話です。

マックスウェルの方程式を解きながら
交流電流の周波数を上げると、表面にしか電流が流れなくなる話です。



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