システム奮闘記:その105

アンペールの法則



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(2016年5月22日に掲載)

アンペールの法則

 アンペールの法則とは以下の事を言う。
アンペールの法則
アンペールの法則
電流と電流が作る磁場との関係式だ。

閉じた経路に沿って磁場を足し合わせた結果が
閉じた経路を貫く電流の和に比例するというのだ。

真空中の場合、閉じた経路の形状に関わらず、誘磁率(μo)と電流(I)の積になるのだ。
本当に経路の形状に依存しない事を、あとで数値計算で示しています。

 この法則が正しいかどうかの実験が行なわれた時期を探すのだが

 西暦1820年: 電磁気学の夜明け「電流の磁気作用の発見」他 
 電流が作る磁場(物理準備室)
 物理学B 第6章 定常電流と静磁界(慶応大学)
 エレクトロニクス科学史
 エールステッドとアンペールによって統一された電気学と磁気学
 エルステッドの発見とアンペールの法則
 電気の世紀へ < 啓蒙の時代から 3電気と磁気へ >(PDF)
 物理の歴史(電磁気)

 これだけ調べたりしても・・・

 わからへん!!

 なのだ。

 1820年、ビオサバールの法則の発表と同時に、アンペールの法則も発表されたが

 アンペールの法則は、他にもあるやん!!

右ねじの法則
右ねじの法則
右ねじの法則は、アンペールが発見したのだ。

電流が流れる向きで、反時計周りになっている。
正の方向への回転になっている。

 そして2本の導線に電流を流した実験もアンペールが行なった。

2本の導線に電流を流した実験
2本の導線に電流を流した実験
2本の導線に、同じ向きに電流を流すと引力が生まれる。
異なる向きに電流を流すと斥力が生まれる。

引力(斥力)の力はお互いの電流の積に導線の長さを掛けた物に比例するのだ。

 というわけで、混乱してきたのだ。


 そのため・・・

 歴史の話を調べるのは断念・・・

 なのだ。

 ところでアンペールは地球磁場が発生する原因として
地球内部に巨大な電磁石があると考えたのだ。

地球内部には電磁石があるという説
地球内部には電磁石があるという説
ギルバートが地球は磁石と唱え、アンペールは地球内部に
巨大な電磁石があると考えた。
電流発生源は、太陽の熱で、太陽光が当たる部分(昼間)と当たらない場所(夜)との
温度差によって電流が発生していると仮説を立てた。

アンペールの仮説は外れたが、アンペールの仮説をキッカケに
温度差による電流発生の原理の研究が始まり
1821年にゼーベックによって発見され、ゼーベック効果と呼ばれているのだ。

 そんな時代に、ゼーベック効果が発見されていたとは知らなかった。


静磁場中のガウスの法則

 まずは静電場中のガウスの法則を、おさらいしてみる。  
静電場中のガウスの法則
静電場中のガウスの法則
静電場中にある閉空間内に電荷がない場合は
空間に入る電場と出ていく電場の量が同じなので
合計するとゼロになるという法則だ。

 磁気双極子のない閉空間でも、磁束密度の流入と流出が同じになり
ゼロになるのだろうか。

ガウスの法則が静磁場でも成り立つのか?
ウスの法則が静磁場でも成り立つのか?
静磁場中の閉空間を貫く磁束密度の合計は
流入も流出も同じなので、結果はゼロになる。
静電場と同様、静磁場中でもガウスの法則は成り立つのだ。

 ここでは、敢えて、磁気双極子を含む空間は取り上げない。


静磁場中の、渦なしの法則

 今度は静磁場中の渦なしの法則を見てみる。  考える空間(経路)は、磁気双極子を含まない領域とする。
磁気双極子を含まない静磁場空間で、渦無しの法則が成り立つ
静磁場空間では、双極子磁場から離れている場所では、渦無しの法則が成り立つ
静磁場でも、渦無しの法則が成り立つ。

 本当に、磁気双極子を含まない静磁場空間で、渦無しの法則が成り立つのか?
 そこで確かめてみる事にした。

 ここでは、わかりやすくするため、3次元空間ではなく、2次元の平面で考える事にした。

2次元(平面)で考えてみる
2次元(平面)で考えてみる
導線がZ軸にあり、Z軸方向に電流が流れている場合
磁束密度はXY平面上を反時計周りの方向で発生するのだ。
2次元にする事で、わかりやすく、かつ、あとの計算を楽にするのだ。

 まずは数学的に見てみる事にする。
 2次元のグリーンの定理を使えば良いのだ。

数学的には2次元のグリーンの定理で確かめる事ができる
数学的には2次元のグリーンの定理で確かめる事ができる
ここにきて、ストークスの定理の前段階に出てきた
2次元のグリーンの定理が活躍する。

 2次元のグリーンの定理を使って確かめてみる。

2次元のグリーンの定理で渦なしの法則を確かめてみる
2次元のグリーンの定理で渦なしの法則を確かめてみる
2次元のグリーンの定理を使ったみたが
渦なしの法則が成り立つとは限らない。

磁束密度の式は、原点(0,0)が特異点になっているため
それが原因で2次元のグリーンの定理が成り立たない状態だ。

 でも、往生際の悪さは天下一品の私。
なので・・・

 近似計算すればエエやん!!

 という事で、数値計算で近似値を出してみる事にした。

3つの円経路で近似計算してみる
3つの円経路で近似計算
導線をまたがない、円経路だと、円経路の位置に関係なく
経路積分の値がゼロになる事を示せば良いのだ。

 そこで以下の単純なプログラムを書いてみた。

数値計算のプログラム
#include <stdio.h>
#include <stdlib.h>
#include <math.h>

int main(void)
{
double fai , k , pi , pi2 , delta , dfai ;
double total ;

pi = 3.1415926 ;
pi2 = pi*2.0 ;

k = 1.0 ; /* ここの数値を変える */

dfai = 0.00001 ;
total = 0.0 ;
for ( fai = 0.0 ; fai < pi2 ; fai += dfai )
{
delta = ( 1.0 + k * (cos(fai) + sin(fai) ) ) /
( 1.0 + 2.0 * k * (cos(fai) + sin(fai)) + 2.0 * k*k) ;
total += (delta * dfai);

}

printf("total = %lf \n",total);

return(0);
}

 早速、計算したら・・・

 期待した通りの結果が出た!!

 のだ。

数値計算の結果
k = 1.0 0.000002
k = 2.0 0.000001
k = 5.0 0.000000

 計算の精度は粗いものの、静磁場中では

 導線から離れた閉経路Cを1周させた場合

 経路積分はゼロになる事が示せた!!

 のだ。


 そして磁気双極子を構成する円回路の中に、閉曲線があった場合でも成り立つ。

磁気双極子を構成する円回路の中に、閉曲線があった場合
磁気双極子を構成する円回路の中に、閉曲線があった場合
導線をまたがないので、上図の場合でも、渦無しの法則は成り立つ。
近似計算すれば良いのだが、そこまで計算力はないので
近似計算は、許してチョンマゲなのだ。

 だが、磁気双極子を作る円形の回路と閉回路が交差した場合
話が変わってくるようだ。

磁気双極子を作る円形の回路と閉回路が交差した場合
磁気双極子を作る円形の回路と閉回路が交差した場合
この場合、どう考えれば良いのか。

 これがまさに・・・

 アンペールの法則

 なのだ。


 無限に長い導線があり、その周囲を反時計周りで1周させる際
各地点での磁束密度の足し合わせは、いかなる経路でも
透磁率(μo)と電流(I)の積になるのだ。

経路が違えど、経路積分の値は電流のみに依存する
経路が違えど、結果は電流の大きさに依存
閉経路を貫く導線を流れる電流によって、経路積分の値が決まるため
閉経路の形状は関係ないというのだ。

それがアンペールの法則なのだ。

 20世紀、電磁気を習った時は

 ふ〜ん、そうなの

 という感じで、何も疑問に感じずにいたのだが
今回は、電磁気の説明を書く立場になったため
論理の飛躍があったりすると、そこから先に進めず

 なんでやねん???

 なのだ。
 そこで数値計算で確かめてみる事にした。

数値計算で、電流のみに依存する事を示してみる
計算する閉経路は、全て導線のある(0,0)を、またぐようにしている。

 さきほどのプログラムを使って数値計算を行なってみる。

数値計算のプログラム
#include <stdio.h>
#include <stdlib.h>
#include <math.h>

int main(void)
{
double fai , k , pi , pi2 , delta , dfai ;
double total ;

pi = 3.1415926 ;
pi2 = pi*2.0 ;

k = 0.4 ; /* ここの数値を変える */

dfai = 0.00001 ;
total = 0.0 ;
for ( fai = 0.0 ; fai < pi2 ; fai += dfai )
{
delta = ( 1.0 + k * (cos(fai) + sin(fai) ) ) /
( 1.0 + 2.0 * k * (cos(fai) + sin(fai)) + 2.0 * k*k) ;
total += (delta * dfai);

}

printf("total = %lf \n",total);

return(0);
}

 計算結果が出た。

数値計算の結果
k = -0.4 6.283191
k = 0.0 6.283190
k = 0.4 6.283189

 結果を見る限り、閉経路の積分の値は

 電流のみに依存している

 なのだ。


 閉閉路の積分の値は、導線の電流のみに依存する事がわかった。
 ところで閉経路の中を、以下の図のように、3本、導線が通っていて
電流が流れている場合は、それぞれの電流が作り出す磁場の合成で
考えれば良いというのだ。

アンペールの法則とは
アンペールの法則
個々の導線に流れる電流が作る磁場の合計と、
閉経路を貫く電流の合計量との関係式だ。
この関係式をアンペールの法則と呼ぶ。

 ようやくアンペールの法則のたどり着いた。


アンペールの法則の微分形

 アンペールの法則の微分形。  微分系なので、微小領域で見た場合のアンペールの法則だ。  導線の断面で考えたら、わかりやすくなる。
導線の断面の微小領域を考えてみる
アンペールの法則の微分形で、導線の断面の微小領域を考えてみる
ガウスの法則の微分形と同様の方法で、電流密度と
それが作り出す磁場との関係式を導き出すのだ。

 ところで教科書では、いきなり

 ストークスの定理より

 という文言を入れて、あっさりと説明してしまう場合が多い。

教科書風に説明すると
教科書風の説明ではストークスの定理を使って、大幅に省略する
教科書では「ストークスの定理より」で、計算を省略する場合が多い。
でも、いきなりストークスの定理と言われても、納得しにくい部分がある。
バカ丁寧に、ガウスの法則と同じように、微小区間の説明をした方が
納得しやすいのはある。私は、そういう方法を採用した。


電磁気学入門の目次
電磁気学入門:目次
スカラーとベクトル 簡単なスカラーとベクトルの話です。
ベクトルは方向と大きさを持つ量。方向という量持っているだけに注意が必要です。
静電気の発見からクーロンの法則 今でこそ当たり前の静電気や導体、絶縁体、電荷など
どういう経緯で発見し、クーロンの法則まで至ったのかの話です。
クーロン力、電場、近接作用 4つの力のうち、クーロン力の位置づけ
電荷が作り出す作用の電場。近接作用の話です。
微分、全微分、方向微分 簡単な微分、全微分、方向微分の話です。
ここをしっかり押さえないと、電磁気の数式の意味が
わからなくなります。
ベクトル解析 電磁気に必要なベクトル解析の話です。
勾配(grad)、2次元のグリーン定理
ストークスの定理の話です。
電位ポテンシャル 電位ポテンシャルです。勾配と電場の関係を使って説明しています。
電気双極子 電気双極子の話です。
物質中で起こる分極を理解するのに必要です。
ガウスの法則 ガウスの法則の積分形、微分形の話です。
ポアソンの方程式、ラプラス方程式 ポアソンの方程式、ラプラス方程式の話です。
単に電荷分布から電位を求めるだけの話にとどまらない
奥が深い分野です。ポテンシャル論、デルタ関数
グリーン関数、固有値問題について触れています。
静電場と渦なしの法則 静電場で、電荷を1周させた時の仕事はゼロ
微分形と微分形の渦なしの法則の話です。
ビオサバールの法則 電気と磁場の関係の発見の話から
ビオ・サバールの法則が導かれるまでの話です。
磁気双極子 磁気双極子の話で、回転電流になります。
物質中の磁場の話にも関連します。
アンペールの法則 アンペールの法則の話です。
積分形・微分形だけでなく、閉回路に流れる電流が作る
磁気双極子の話なども書いています。
ローレンツ力 磁場中を移動する電荷にかかる力(ローレンツ力)の話です。
ローレンツ力は相対性理論が絡んでいる事も紹介しています。
ファラデーの誘導起電力の法則 ファラデーの誘導起電力の話です。
うず電流を使った簡単な物理実験 電力計に使われるアラゴの円盤。
そしてIH調理器で熱するために発生させる、うず電流は
レンツの法則から電流が発生する原理を応用した物だ。

アラゴの円盤の実験と、IH調理器を使った実験です。
気分転換で読んでください。
ベクトルポテンシャル わかりにくいベクトルポテンシャルの話です。
電位は電荷が作る電気のポテンシャルだが
ベクトルポテンシャルは電流が作る磁場のポテンシャルの話です。
オームの法則の微分形 微小領域でのオームの法則の話です。
マックスウェルの方程式 4つのマックスウェルの方程式を書いています。
電場と磁場の変化を図にする事で
rotの回転の意味も理解できます。
ゲージ変換 ゲージ(gauge)は物差しの意味です。
マックスウェルの方程式をE(電場)とB(磁場)の関係式から
φ(電位ポテンシャル)とA(ベクトルポテンシャル)の関係式に
書き換える際、ゲージ変換が使われます。
ゲージ変換の役目を書きました。
電磁波 マックスウェルの方程式から電波が伝わる様子を
視覚的に見てみる話です。
回転のrotはベクトルの微分 ベクトル解析や渦なしの法則で出てくるrotは
ベクトルの微分という話です。
電磁気学の単位系 電磁気学の単位系の話です。
物理量の単位系の指数を見る次元解析
電磁気学の歴史と単位系の変遷について触れました。
電気泥棒:電気と法律の話 電気は物体なのか、無形物なのか。
明治時代に、電気を無断で使った場合、物か、そうでないかで
窃盗罪になるかどうかが裁判で問われました。
ちょっとした科学と法律の話です。気分転換で読んでください。
数ベクトルと基底ベクトル ベクトルの話です。
矢印だけがベクトルでない事。
数ベクトルと基底ベクトルの違いの話です。
多様体、反変・共変ベクトルを理解するのに必要です
多様体 空間を一般化した話です。
▽(ナブラ)の正体に迫まります
外積代数 外積、テンソルについて書いています。
極性ベクトル、軸性ベクトル
外積は行列で、ベクトルは見せかけの姿だった話です。
ベクトルの双対関係 反変ベクトル、共変ベクトル、双対関係
ベクトル解析、外積代数の話
外積、テンソルについて書いています。
ローレンツ力と相対性理論 磁場は電場の相対論的効果だった話です。
ローレンツ力を使って、導線が作る磁場を使って説明です。
微分形式 多様体の話の続きです。
座標に依存しない形での関数やベクトルの微分の話です。
ガウスの法則、アンペールの法則、マックスウェルの方程式が
鮮やかな形で表現できます。
∇(ナブラ)の正体もわかります。
物理と対称性 マックスウェルの方程式をよく見ると対称性があります。
物理の方程式と対称性を数学的な観点でみると
意外なつながりがあるという話です。
マックスウェルの応力 電気力線を弾性体(ゴム)とみなして、力の伝わり方などを
説明した考え方です。
電場エネルギー 電場が持つエネルギーの式を導いた話です。
磁場エネルギー 磁場が持つエネルギーの式です。
手抜きの説明と、直流RL回路を使った説明を書きました。
ポインティングベクトル 電磁エネルギーの流れ「ポインティングベクトル」の話です。
電磁波でもエネルギー保存則が成り立つ話から
ポインティングベクトルを導いています。
電気エネルギーは導線の外を伝わる 導線の外を電気エネルギーが流れる話です。
私が誤解した事、その誤解を解いていく過程を紹介しながら
「目からウロコ」にたどり着いた話です。
物質中の電場 物質中の電場の話です。
分極の話をしながら、物質中の電場の話をします
物質中の磁場 磁性の話をしながら、物質中の磁場の話をします
物質中のマックスウェルの方程式 物質中でもマックスウェルの方程式が成り立つ話です。
導体に侵入する電磁波 導体に侵入する電磁波が減衰していく話です。
表皮効果と同じ「表皮の厚さ」が出てきます
表皮効果 目的の表皮効果の話です。

マックスウェルの方程式を解きながら
交流電流の周波数を上げると、表面にしか電流が流れなくなる話です。


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