システム奮闘記:その105

数ベクトルと基底ベクトル



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(2016年5月22日に掲載)

ベクトルは矢印とは限らない

 ここまでの話でベクトルがでてきたが、なぜ特別に章を設けるか。  私が勘違いしていた話などがあるので、紹介するためなのだ。  ベクトルといえば、高校で習った矢印を連想する。
ベクトルといえば矢印
ベクトルといえば矢印の幾何ベクトル
ベクトルとは、方向と大きさを持った物で、矢印として描かれる。
高校で習うベクトルといえば、矢印のベクトルで「幾何ベクトル」と呼ばれる物だ。

 矢印のベクトル。
 大きさと方向を表す際、各方向への大きさを書いた物だと
高校の数学では習った。確か、大学で習う線形代数でもそうだ。

高校の数学で習うベクトルとは
高校の数学で習うベクトル
ベクトルを図形に描くと矢印だ。
そしてベクトルの方向を成分で表現しているのだ。

 ところで、回転のrotを調べている際、∇の事を調べていた。
 ネットにある大学の数学講義の資料や、物理数学の講義資料を見ていくと

 ▽(ナブラ)は接ベクトル

 と言う記述を発見した。

▽(ナブラ)は接ベクトル
▽(ナブラ)は接ベクトル
演算子の▽(ナブラ)に関数を作用させたものが
その関数の勾配ベクトルになるので接ベクトルというのだが
この時、演算子そのものが接ベクトルだと思い込んでしまった。

 ∇(ナブラ)そのものがベクトルと思い込んだため・・・

 なんで演算子がベクトルやねん!!

 と思った。
 そして調べていくうちに、ベクトルの定義を見つけた。

 私の頭に激震が走った

ベクトルの定義
ベクトルの定義
この定義さえ満たしていれば、どんな要素でもベクトルになれる。

 つまり、今まで思っていたベクトルは狭い範囲の話で

 矢印の幾何ベクトルだけがベクトルやない!!

 関数も演算子も多項式も、定義を満たせばベクトルになるのだ。

関数も演算子も多項式も、定義を満たせばベクトル
 関数も演算子も多項式も、定義を満たせばベクトル
「システム奮闘記:その104」(無線LAN入門 無線LANの基礎)で関数もベクトルだと紹介した。
だが、その時は、違和感を覚えながらも直交関数系を紹介した。
三角関数や相関関数が良い例だ。
そして今回、演算子が加わった。

 演算子が定義さえ満たせばベクトルになれる。
 それを頭に入れておかないと、この先にある多様体の所で
速度ベクトルを求める際、仰天する事になるのだ。

 そして量子力学で出てくる運動量が演算子になっているので
演算子がベクトルになれる事を知らないと、面を食らうことになるのだ。


数ベクトルと基底ベクトル

 これから先にある多様体や外積代数の話を理解するには 基底ベクトルと数ベクトルの違いがわからないと話が混乱するので その違いを書いてみた。  この話を書くという事は  私がわかってへんかった  という事なのだ。  正規直交座標系で、2つの違いをみていく。
基底ベクトルとは
基底ベクトルとは
各方向の基準になる長さのベクトルだ。
正規直交座標の場合、互いに垂直で長さ1のベクトルになるのだ。

 数ベクトルとは何なのかを見てみる。
 
数ベクトルとは
数ベクトルとは
ベクトルの成分で表示した物が数ベクトルだ。
数ベクトルの場合、わかりやすい反面
基底ベクトルが隠れてしまっている。
そのため基底ベクトルには注意が必要になる。

 数ベクトルの厄介な事は

 点の表記と同じ

 なのだ。

 そのため点と数ベクトルの違いを認識せずに数式を見ると
わけがわからんようになるのだ。


 ところで、高校の数学や、大学1年で習う力学を扱う分には
正規直交座標系を使うため、数ベクトルの基底ベクトルを
気にする必要はない。

 だが、その先の事を勉強する際には、異なる基底ベクトルが出てくるため、
何を基底にした数ベクトルかを注意する必要があるのだ。

座標変換

 基底ベクトルと数ベクトルの違いがわかった。  次に座標変換と基底変換の話だが混同しやすい(私もしていた)ため その話を書く事にする。  座標変換とは回転などによって  位置を移動させるための変換  なのだ。  具体例として回転移動を見てみる。
回転移動
回転移動
回転する場合もあれば、Y軸対象や原点対象の移動などがある。

 基底ベクトルには変更がなく、点が移動した場合に使うのだ。

基底変換

 基底変換の話をする。  基底変換とは・・・  基底が変わった事による数ベクトルの変換  なのだ。  そのため・・・  点の位置そのものは移動しない  というのだ。ここが座標変換との違いだ。  直交座標系のマス目に、2つの基底ベクトルを用意する。
直交座標系のマス目に、2つの基底ベクトルを用意する
直交座標系のマス目に、2つの基底ベクトルを用意する
添え字を下にするか、上にするかで、区別している。

 マス目上の座標(10.-4)の位置を点Aとする。
 それを2つの基底を使って、それぞれを表現してみる。

点Aを2つの基底を使って、それぞれ表現してみる。
点Aを2つの基底を使って、それぞれ表現してみる
2つの基底を使う事で、それぞれの数ベクトルが求まった。
基底が異なるだけで、点Aの位置は同じなのだ。

 ところで基底変換とは以下の事を言う。

基底変換とは数ベクトルの変換
基底変換とは数ベクトルの変換
基底が変わると、同じ位置であっても数ベクトルは変わる。
基底変換とは、基底が変わった際、数ベクトルの変換のことを言う。

 数ベクトルの変換の際、変換行列が使われる。

数ベクトルの変換の際、変換行列が使われる
数ベクトルの変換の際、変換行列が使われる
基底変換するための変換行列を求めてみる。
計算方法は簡単で、行列の計算をするだけだ。
高校の数学で習う行列の計算なのだ。()

注意
私の高校時代は行列を習ったのだが
2012年頃からの高校数学では行列が消えたという。

 だが、問題が起こった。

 逆行列の求め方を忘れた

 なにせ20年ぐらい逆行列の計算をした事がないので
忘れて当然なのだ。

 そこで復習する事にした。2×2の行列なので
逆行列の式を暗記した方が早い。

2×2の行列の逆行列の公式
2×2の行列の逆行列の公式
これを覚えておく必要がある。

 これでようやく前に進む。

逆行列の計算をしてみる
逆行列の計算をしてみる

 これで基底1から基底2への基底変換行列が求まった。

基底1から基底2への基底変換行列が求まった
基底1から基底2への基底変換行列が求まった
2つの基底の関係式が出たら、基底変換行列は求まるのだ。

 無事、基底変換行列が求まった。
 基底変換の話。多様体上の関数の微分で出てくる。
 その話は後で出てくる多様体で書いています。


電磁気学入門の目次
電磁気学入門:目次
スカラーとベクトル 簡単なスカラーとベクトルの話です。
ベクトルは方向と大きさを持つ量。方向という量持っているだけに注意が必要です。
静電気の発見からクーロンの法則 今でこそ当たり前の静電気や導体、絶縁体、電荷など
どういう経緯で発見し、クーロンの法則まで至ったのかの話です。
クーロン力、電場、近接作用 4つの力のうち、クーロン力の位置づけ
電荷が作り出す作用の電場。近接作用の話です。
微分、全微分、方向微分 簡単な微分、全微分、方向微分の話です。
ここをしっかり押さえないと、電磁気の数式の意味が
わからなくなります。
ベクトル解析 電磁気に必要なベクトル解析の話です。
勾配(grad)、2次元のグリーン定理
ストークスの定理の話です。
電位ポテンシャル 電位ポテンシャルです。勾配と電場の関係を使って説明しています。
電気双極子 電気双極子の話です。
物質中で起こる分極を理解するのに必要です。
ガウスの法則 ガウスの法則の積分形、微分形の話です。
ポアソンの方程式、ラプラス方程式 ポアソンの方程式、ラプラス方程式の話です。
単に電荷分布から電位を求めるだけの話にとどまらない
奥が深い分野です。ポテンシャル論、デルタ関数
グリーン関数、固有値問題について触れています。
静電場と渦なしの法則 静電場で、電荷を1周させた時の仕事はゼロ
微分形と微分形の渦なしの法則の話です。
ビオサバールの法則 電気と磁場の関係の発見の話から
ビオ・サバールの法則が導かれるまでの話です。
磁気双極子 磁気双極子の話で、回転電流になります。
物質中の磁場の話にも関連します。
アンペールの法則 アンペールの法則の話です。
積分形・微分形だけでなく、閉回路に流れる電流が作る
磁気双極子の話なども書いています。
ローレンツ力 磁場中を移動する電荷にかかる力(ローレンツ力)の話です。
ローレンツ力は相対性理論が絡んでいる事も紹介しています。
ファラデーの誘導起電力の法則 ファラデーの誘導起電力の話です。
うず電流を使った簡単な物理実験 電力計に使われるアラゴの円盤。
そしてIH調理器で熱するために発生させる、うず電流は
レンツの法則から電流が発生する原理を応用した物だ。

アラゴの円盤の実験と、IH調理器を使った実験です。
気分転換で読んでください。
ベクトルポテンシャル わかりにくいベクトルポテンシャルの話です。
電位は電荷が作る電気のポテンシャルだが
ベクトルポテンシャルは電流が作る磁場のポテンシャルの話です。
オームの法則の微分形 微小領域でのオームの法則の話です。
マックスウェルの方程式 4つのマックスウェルの方程式を書いています。
電場と磁場の変化を図にする事で
rotの回転の意味も理解できます。
ゲージ変換 ゲージ(gauge)は物差しの意味です。
マックスウェルの方程式をE(電場)とB(磁場)の関係式から
φ(電位ポテンシャル)とA(ベクトルポテンシャル)の関係式に
書き換える際、ゲージ変換が使われます。
ゲージ変換の役目を書きました。
電磁波 マックスウェルの方程式から電波が伝わる様子を
視覚的に見てみる話です。
回転のrotはベクトルの微分 ベクトル解析や渦なしの法則で出てくるrotは
ベクトルの微分という話です。
電磁気学の単位系 電磁気学の単位系の話です。
物理量の単位系の指数を見る次元解析
電磁気学の歴史と単位系の変遷について触れました。
電気泥棒:電気と法律の話 電気は物体なのか、無形物なのか。
明治時代に、電気を無断で使った場合、物か、そうでないかで
窃盗罪になるかどうかが裁判で問われました。
ちょっとした科学と法律の話です。気分転換で読んでください。
数ベクトルと基底ベクトル ベクトルの話です。
矢印だけがベクトルでない事。
数ベクトルと基底ベクトルの違いの話です。
多様体、反変・共変ベクトルを理解するのに必要です
多様体 空間を一般化した話です。
▽(ナブラ)の正体に迫まります
外積代数 外積、テンソルについて書いています。
極性ベクトル、軸性ベクトル
外積は行列で、ベクトルは見せかけの姿だった話です。
ベクトルの双対関係 反変ベクトル、共変ベクトル、双対関係
ベクトル解析、外積代数の話
外積、テンソルについて書いています。
ローレンツ力と相対性理論 磁場は電場の相対論的効果だった話です。
ローレンツ力を使って、導線が作る磁場を使って説明です。
微分形式 多様体の話の続きです。
座標に依存しない形での関数やベクトルの微分の話です。
ガウスの法則、アンペールの法則、マックスウェルの方程式が
鮮やかな形で表現できます。
∇(ナブラ)の正体もわかります。
物理と対称性 マックスウェルの方程式をよく見ると対称性があります。
物理の方程式と対称性を数学的な観点でみると
意外なつながりがあるという話です。
マックスウェルの応力 電気力線を弾性体(ゴム)とみなして、力の伝わり方などを
説明した考え方です。
電場エネルギー 電場が持つエネルギーの式を導いた話です。
磁場エネルギー 磁場が持つエネルギーの式です。
手抜きの説明と、直流RL回路を使った説明を書きました。
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物質中の磁場 磁性の話をしながら、物質中の磁場の話をします
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表皮効果 目的の表皮効果の話です。

マックスウェルの方程式を解きながら
交流電流の周波数を上げると、表面にしか電流が流れなくなる話です。


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