システム奮闘記:その105

電場エネルギー



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(2016年5月22日に掲載)

電場エネルギーと次元解析

 単位体積辺りの電場エネルギーは以下の式で表わされる。
単位体積辺りの電場エネルギの式
単位体積辺りの電場エネルギの式
誘電率を質量、電場を速度と見ると、運動エネルギーの式に見える。
でも、そんな単純な話ではなさそうだ。

 上の式が本当に単位体積辺りの電場エネルギーなのかを確認するため
次元解析をしてみる。

単位体積辺りの電場エネルギーを次元解析してみる
単位体積辺りの電場エネルギーを次元解析してみる
単位体積辺りの電場エネルギーの物理量なのがわかった。

 だが、どうやって電場エネルギーの式を導けるのか見てみる事にする。


マックスウェルの応力を使って電場エネルギーを求める

 単位体積辺りの電場のエネルギー。  マックスウェルの応力の観点で見てみる事にする。  まずは電荷を帯びた球体を見てみる。
電荷を帯びた球体と静電張力
電荷を帯びた球体と静電張力
半径aの電荷を帯びた球体を見てみる。
外に向って働く静電張力がある。
単位面積辺りの力になる。

 この球体を、ギュッと押してΔaだけ半径を縮めるとする。

ギュッと押してΔaだけ半径を縮める
電荷を帯びた球体を、ギュッと押してΔaだけ半径を縮める
この時、Δaだけ縮めるためには、どれくらいの仕事が必要なのかを計算する。

 実際に計算してみる。

Δaだけ縮めるためには、どれくらいの仕事が必要なのかを計算する
Δaだけ縮めるためには、どれくらいの仕事が必要なのかを計算する
仕事量が求まった。
これを単位体積辺りの仕事量にすると
単位体積あたりの電場のエネルギーと一致するのだ。


荷電粒子の集合から空間の電場エネルギーを求める

 マックスウェルの応力を使って求めた、単位体積辺りの電場エネルギーは 一様に電荷密度を持った球体を縮めた場合になる。  もし、各地点にバラバラで、しかも異なる電荷を持った荷電粒子がある場合 それらが作り出す電場エネルギー(単位体積辺り)を求める  空間に複数の電荷が散らばっている場合を考える。電位ポテンシャルの所で触れたが、 この時、空間の電位ポテンシャルは足し合わせができる。
複数の荷電粒子がある場合の電位の重ね合わせ
複数の荷電粒子がある場合の電位の重ね合わせ
各荷電粒子が作る電位を足し合わせた物が、その位置での電位になる。
スカラーなので、単純に足し合わせるだけで良いのだ。

 だが、ここで考える事が出てくる。

 複数の電荷を空間に置くためには

 どれくらいのエネルギーがいるねん

 この時、無限に遠い場所は、電気ポテンシャルがゼロとする。
 無限に遠い場所から、電荷を運んできていると考えるのだ。


 そこでまずは、2個の電荷を置いた場合、置くのに必要なエネルギーを求めてみる。
 そのためには、まず2個の電荷が作る電位ポテンシャルを求める。

2個の電荷が作る電位ポテンシャル
2個の電荷が作る電位ポテンシャル
q1が作る電位ポテンシャルと、q2が作る電位ポテンシャルだ。

 電位ポテンシャルがわかれば、無限の彼方から所定の位置に
電荷を運ぶのに必要なエネルギーを求めれば良いのだ。

2個の電荷を置いた場合、置くのに必要なエネルギーを求めてみる
2個の電荷を置いた場合、置くのに必要なエネルギーを求めてみる
最初に電荷を運ぶ際は、電位ポテンシャルは発生していないので
電荷を運ぶのにエネルギーは必要ない。

2個目の電荷を運ぶ際、1個目の電荷が作る電位ポテンシャルがあるので
2個目の電荷を運ぶ際、エネルギーが必要になる。

どっちが先においても、実は必要なエネルギーは変わらない。
そこでどっちが先においても支障がないように、折衷案の式(?)にしているのだ。

 次に複数個の電荷の場合を考えてみる。

複数個の電荷の場合
複数個の電荷の場合
複数の場合でも同じ事が言える。
最初に電荷を運ぶ際はエネルギーが必要ない。
だが、2個目以降は、それまでに置かれた電荷が作る電位ポテンシャルがあるので
運ぶのにエネルギーが必要になる。

この場合も、どの電荷を置くか、順番を変えても、必要なエネルギーは変わらないので
折衷案みたいな式になる。

 次に、ある電荷密度を持った微小体積の場合を考える。

2個の電荷密度を持った微小体積の場合
2個の電荷密度を持った微小体積の場合
2個の電荷の場合と全く同じだ。

 そして複数の、電荷密度を持った微小体積の場合を考える。

複数の、電荷密度を持った微小体積の場合
複数の、電荷密度を持った微小体積の場合
ここでも置いた順番を変えても、必要なエネルギーは同じになる。

 ところで無限に広がる空間で、無限に電荷密度を持った微小体積が存在する場合を考える。

無限に広がる空間で、無限に電荷密度を持った微小体積が存在する場合
無限に広がる空間で、無限に電荷密度を持った微小体積が存在する場合
無限に広い空間が、上図の式を触る際に重要になってくる。
ガウスの定理が出てくる。無限に広い空間なので、無限に遠い場所で
面積分を行なう事で、0になるのだ。

そして空間全体の電場エネルギーの式が求まる。
そこから単位体積辺りの電場エネルギーの式を抜き出す事ができるのだ。

 だが思った。

 何か解せない

 電場エネルギーを導いてきた過程では、空間中に電荷や電荷密度が存在する場合になる。

 真空中を飛んでいる電磁波には電荷がないので

 真空中の電場エネルギーと結びつかへん

 なのだ。

 真空中の電磁エネルギーはポインティングベクトルというのがあり
それでエネルギーを移動させているのだが

 何か釈然としない

 のだ。

 だが、力尽きたので、今回は、ここで諦めることにした。


電磁気学入門の目次
電磁気学入門:目次
スカラーとベクトル 簡単なスカラーとベクトルの話です。
ベクトルは方向と大きさを持つ量。方向という量持っているだけに注意が必要です。
静電気の発見からクーロンの法則 今でこそ当たり前の静電気や導体、絶縁体、電荷など
どういう経緯で発見し、クーロンの法則まで至ったのかの話です。
クーロン力、電場、近接作用 4つの力のうち、クーロン力の位置づけ
電荷が作り出す作用の電場。近接作用の話です。
微分、全微分、方向微分 簡単な微分、全微分、方向微分の話です。
ここをしっかり押さえないと、電磁気の数式の意味が
わからなくなります。
ベクトル解析 電磁気に必要なベクトル解析の話です。
勾配(grad)、2次元のグリーン定理
ストークスの定理の話です。
電位ポテンシャル 電位ポテンシャルです。勾配と電場の関係を使って説明しています。
電気双極子 電気双極子の話です。
物質中で起こる分極を理解するのに必要です。
ガウスの法則 ガウスの法則の積分形、微分形の話です。
ポアソンの方程式、ラプラス方程式 ポアソンの方程式、ラプラス方程式の話です。
単に電荷分布から電位を求めるだけの話にとどまらない
奥が深い分野です。ポテンシャル論、デルタ関数
グリーン関数、固有値問題について触れています。
静電場と渦なしの法則 静電場で、電荷を1周させた時の仕事はゼロ
微分形と微分形の渦なしの法則の話です。
ビオサバールの法則 電気と磁場の関係の発見の話から
ビオ・サバールの法則が導かれるまでの話です。
磁気双極子 磁気双極子の話で、回転電流になります。
物質中の磁場の話にも関連します。
アンペールの法則 アンペールの法則の話です。
積分形・微分形だけでなく、閉回路に流れる電流が作る
磁気双極子の話なども書いています。
ローレンツ力 磁場中を移動する電荷にかかる力(ローレンツ力)の話です。
ローレンツ力は相対性理論が絡んでいる事も紹介しています。
ファラデーの誘導起電力の法則 ファラデーの誘導起電力の話です。
うず電流を使った簡単な物理実験 電力計に使われるアラゴの円盤。
そしてIH調理器で熱するために発生させる、うず電流は
レンツの法則から電流が発生する原理を応用した物だ。

アラゴの円盤の実験と、IH調理器を使った実験です。
気分転換で読んでください。
ベクトルポテンシャル わかりにくいベクトルポテンシャルの話です。
電位は電荷が作る電気のポテンシャルだが
ベクトルポテンシャルは電流が作る磁場のポテンシャルの話です。
オームの法則の微分形 微小領域でのオームの法則の話です。
マックスウェルの方程式 4つのマックスウェルの方程式を書いています。
電場と磁場の変化を図にする事で
rotの回転の意味も理解できます。
ゲージ変換 ゲージ(gauge)は物差しの意味です。
マックスウェルの方程式をE(電場)とB(磁場)の関係式から
φ(電位ポテンシャル)とA(ベクトルポテンシャル)の関係式に
書き換える際、ゲージ変換が使われます。
ゲージ変換の役目を書きました。
電磁波 マックスウェルの方程式から電波が伝わる様子を
視覚的に見てみる話です。
回転のrotはベクトルの微分 ベクトル解析や渦なしの法則で出てくるrotは
ベクトルの微分という話です。
電磁気学の単位系 電磁気学の単位系の話です。
物理量の単位系の指数を見る次元解析
電磁気学の歴史と単位系の変遷について触れました。
電気泥棒:電気と法律の話 電気は物体なのか、無形物なのか。
明治時代に、電気を無断で使った場合、物か、そうでないかで
窃盗罪になるかどうかが裁判で問われました。
ちょっとした科学と法律の話です。気分転換で読んでください。
数ベクトルと基底ベクトル ベクトルの話です。
矢印だけがベクトルでない事。
数ベクトルと基底ベクトルの違いの話です。
多様体、反変・共変ベクトルを理解するのに必要です
多様体 空間を一般化した話です。
▽(ナブラ)の正体に迫まります
外積代数 外積、テンソルについて書いています。
極性ベクトル、軸性ベクトル
外積は行列で、ベクトルは見せかけの姿だった話です。
ベクトルの双対関係 反変ベクトル、共変ベクトル、双対関係
ベクトル解析、外積代数の話
外積、テンソルについて書いています。
ローレンツ力と相対性理論 磁場は電場の相対論的効果だった話です。
ローレンツ力を使って、導線が作る磁場を使って説明です。
微分形式 多様体の話の続きです。
座標に依存しない形での関数やベクトルの微分の話です。
ガウスの法則、アンペールの法則、マックスウェルの方程式が
鮮やかな形で表現できます。
∇(ナブラ)の正体もわかります。
物理と対称性 マックスウェルの方程式をよく見ると対称性があります。
物理の方程式と対称性を数学的な観点でみると
意外なつながりがあるという話です。
マックスウェルの応力 電気力線を弾性体(ゴム)とみなして、力の伝わり方などを
説明した考え方です。
電場エネルギー 電場が持つエネルギーの式を導いた話です。
磁場エネルギー 磁場が持つエネルギーの式です。
手抜きの説明と、直流RL回路を使った説明を書きました。
ポインティングベクトル 電磁エネルギーの流れ「ポインティングベクトル」の話です。
電磁波でもエネルギー保存則が成り立つ話から
ポインティングベクトルを導いています。
電気エネルギーは導線の外を伝わる 導線の外を電気エネルギーが流れる話です。
私が誤解した事、その誤解を解いていく過程を紹介しながら
「目からウロコ」にたどり着いた話です。
物質中の電場 物質中の電場の話です。
分極の話をしながら、物質中の電場の話をします
物質中の磁場 磁性の話をしながら、物質中の磁場の話をします
物質中のマックスウェルの方程式 物質中でもマックスウェルの方程式が成り立つ話です。
導体に侵入する電磁波 導体に侵入する電磁波が減衰していく話です。
表皮効果と同じ「表皮の厚さ」が出てきます
表皮効果 目的の表皮効果の話です。

マックスウェルの方程式を解きながら
交流電流の周波数を上げると、表面にしか電流が流れなくなる話です。


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