システム奮闘記:その106

LANの基礎 LAN入門



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(2016年11月14日に掲載)

差動回路

 回路といえば、電磁波(ノイズ)対策の差動回路がある。 「システム奮闘記:その24」(LAN構築)で触れたのだが復習を兼ねて書く事にする。  10Base-T、100Base-TXの場合、LANケーブルの8本の線のうち、 4本を使ってデータ通信を行なっている。  その際、複々線でデータ通信を行なっているのだ。
2003年当時、私が思った疑問
LANの線は8本のうち4本使っている。複々線での使用だ
よく考えたら、全二重の通信だと、複線で充分のはずだが、
なぜか、複々線になっている。

  その理由はノイズ対策だという。

複々線にしている理由
LANケーブルの線が複々線にしているのは、作動回路を使ってノイズを打ち消しあうため
同じデータを1本ではなく、2本で送る事によって
ノイズが乗っても、除去できるという仕組みだ。

 「システム奮闘記:その24」を書いた際(2003年時点)、初めて差動回路を知った。
 だが、電子回路の知識がない上、電磁気学も忘却の彼方だったので
この先を調べる事はしなかった。


 今回も軽く触れて逃げようと思いつつ、差動回路について調べてみると
以下のサイトを見つけた。
 
 高速の伝送が、なぜ差動伝送になっているのか?  | 村田製作所
 導体伝導とコモンモード  | 村田製作所

差動回路を伝わる信号
差動回路を伝わる信号
2本の線を使って、信号を伝えている。

 そして2本に分けた時の信号を見ると・・・

 片方が反転しているやん

 なのだ。

差動回路を伝わる信号(片方が反転している)
差動回路を伝わる信号(片方が反転している)
2本の線を使って、信号を伝えている。
その際、片方が反転した形の信号になっているのだ。

 一体、どないして、反転させてるねん?

 なのだ。

 ここで悩んでも前に進まないので、2本の信号線の終点はどうなっているか調べてみる。
 以下のサイトを発見。
 オペアンプ・コンパレータの回路構成 - エレクトロニクス豆知識 | ローム株式会社 - ROHM Semiconductor


 2本の線の終点部分、すなわち信号の受信側は

 オペアンプやん!!

 なのだ。

差動回路の受信側はオペアンプ
差動回路の受信側はオペアンプ
オペアンプは増幅回路に使われるのだが
なぜ、ここで使われるのか、この時、理解できなかった。
それもそのはず、回路の知識がないからなのだ。

 この先、前に進もうとしたが

 アナログ回路の知識があらへん!!

 という現実にぶち当たる。

 だが・・・

 往生際の悪さは天下一品の私

 なので、次の本を取り出した。

 「アナログ電子回路」(日本理工出版会:大類重範)



差動増幅回路

 信号線を2本にして信号を送る。  雑音(ノイズ)対策なのだが、なぜ雑音対策になるのか見てみる事にした。  まずは差動回路の出力部分に注目してみる。
差動回路の出力部分
差動回路の出力部分
1つの信号線から、2本線にしている部分を見てみる。

 出力部分は、まさに差動増幅回路になっている。


 まずは、2入力信号の差動増幅回路を見てみる。

2入力信号の差動増幅回路
2入力信号の差動増幅回路
2つの増幅回路を合体した形になっている。

 2つの入力信号を同相の信号を送った場合を見てみる。

2つの入力信号を同相の信号を送った場合
入力信号を同相の信号を送った場合
2つの信号とも増幅される。

 差動増幅回路の場合、入力信号が1つの場合もある。

1入力の差動増幅回路
入力信号が1つで、それを増幅した上で、2つの逆位相の信号を取り出す回路なのだ。

 1入力の差動増幅回路に、入力信号を送ると、2つの逆位相の増幅信号ができるのだ。

1入力の差動増幅回路で、2つの逆位相の増幅信号ができる
1入力の差動増幅回路で、2つの逆位相の増幅信号ができる
2つの逆位相の増幅信号ができるのだ。

 1つの信号を、2つの逆位相の信号に増幅するので

 差動増幅回路の出力部分

 になるのだ。


 次に2本の信号線を1本にする部分に注目する。

差動回路の受信側はオペアンプ
差動回路の受信側はオペアンプ
受信側はオペアンプが使われている。

 オペアンプとは・・・

 電圧増幅度が無限大の素子

 なのだ。

 実際には無限大ではないが、相当、大きな電圧増幅度を持っている。

 理想的なオペアンプの特徴を書いてみる。(本の丸写し)

オペアンプの記号と特徴
オペアンプの記号と特徴
オペアンプは増幅器なので入力信号を増幅させる。
入力端子の(+)側は、同相入力で、同じ位相の信号が増幅されて出力される。
入力端子の(-)側は、逆相入力で、位相が逆転した上で増幅された信号が出力される。

もちろん、外部から電力供給は必要なのだが、それを省略した記号が
一般的によく使われる。


オペアンプの同相入力と逆相入力。
差動増幅回路に似ていると思った方は、回路に関する才能があります。(私は気づかなかった)
オペアンプは差動増幅回路を応用した回路です。でも、ここでは取り上げません。
私に説明できるだけの知識がないのだ。

 ところで理想のオペアンプとは以下の特徴がある。

理想のオペアンプの特徴
(1) 電圧利得は無限大
(2) 入力インピーダンスは無限大
(3) 出力インピーダンスはゼロ

 もちろん、理想なので現実とは異なるのだが
回路の概略を考える上では、上の3点で考えても、あまり問題はない(と思う)


 そこでオペアンプの利用方法を見ていく。
 まずは反転増幅回路としての活用法だ。

オペアンプで反転増幅回路を作る
オペアンプで反転増幅回路
入力側から信号電流が流れるとする。
オペアンプは入力インピーダンスが無限大なので
抵抗の方に電流が流れるのだ。
この時の電圧増幅度はどうなるのかを見てみる。

 まずは電流の値を求める事からはじまる

オペアンプで反転増幅回路で作った場合の電圧増幅度を求めてみる
オペアンプで反転増幅回路で作った場合の電圧増幅度を求めてみる
電圧増幅度(電圧利得)は、抵抗の値によって決まるのだ。

ところで符号がマイナスになっているのは、入力電圧と出力電圧との位相が
逆転しているからなのだ。


 次に非反転増幅回路(単なる増幅回路)を見てみる。

オペアンプで非反転増幅回路を作る
オペアンプで非反転増幅回路
電流は電圧の高い所から低い所に流れるので、矢印の方向に流れる。

 そして電圧増幅度(電圧利得)を求めてみる。

オペアンプで非反転増幅回路で作った場合の電圧増幅度を求めてみる
オペアンプで非反転増幅回路で作った場合の電圧増幅度を求めてみる
電圧増幅度(電圧利得)は、抵抗の値で決まるのだ。

 次にオペアンプを使った差動増幅回路だ。

オペアンプを使った差動増幅回路
オペアンプを使った差動増幅回路
2入力の電位差を増幅した物を出力するのだ。
どういう仕組みなのかを見ていく。

 まずは入力2側の電圧をゼロとした場合を見てみる。

入力2側の電圧をゼロとした場合を見てみる
オペアンプを使った差動増幅回路 入力2側の電圧をゼロとした場合
この時、反転増幅回路になる。
電圧利得(電圧増幅度)は抵抗の値で決まるのだ。

 次に入力1側の電圧をゼロとした場合を見てみる。


入力1側の電圧をゼロとした場合を見てみる
オペアンプを使った差動増幅回路 入力1側の電圧をゼロとした場合
この時、非反転増幅回路になっている。
電圧利得(電圧増幅度)は抵抗の値で決まるのだ。

 次に入力1と入力2から同時に信号を送るとする。

入力1と入力2から同時に信号を送る
オペアンプを使った差動増幅回路 入力1と入力2から同時に信号を送る
この時、抵抗を「R1=R3」と「R2=R4」にすると
2つの信号の差を増幅する、差動増幅回路になるのだ。

電圧利得(電圧増幅度)は抵抗の値で決まるのだ。

 もし、同じ波長で逆位相の2つの信号を送った場合を見てみる。

同じ波長で逆位相の2つの信号を送った場合を見てみる
同じ波長で逆位相の2つの信号を送った場合
波の大きさ(電圧)は増幅される。
まさに差動増幅回路なのだ。

 もし、同じ位相の2つの信号を送った場合を見てみる。

同じ位相の2つの信号を送った場合を見てみる
同じ位相の2つの信号を送った場合
もし、同じ波形の信号なら、差を取るとゼロになるため
増幅してもゼロになる。

 この事から、わかった事は・・・

 差動増幅回路は同じ信号を打ち消す働きがある!!

 なのだ。


 もし、同時に入力1と入力2に同じ雑音信号(ノイズ)がやってきた場合
どうなるかを見てみる。

同時に入力1と入力2に同じ雑音信号(ノイズ)がやってきた場合
同時に入力1と入力2に同じ雑音信号(ノイズ)がやってきた場合
この場合、打ち消しあって、ゼロになる。

 ところでLANケーブルは、1つの信号を送るのに、2本線を使っていた。
1入力差動回路によって、位相が逆の2つの信号を送信していた。

 途中、電磁波によって雑音信号(ノイズ)がのってしまう。

2つの線にのる雑音信号(ノイズ)は同じ物と考える
つの線にのる雑音信号(ノイズ)は同じ物と考える
2本線は隣接しているため、2本とも同じ雑音信号がのると考える。

 同じ大きさの雑音信号がのった、2つの信号が差動増幅回路に入ってきた場合を見てみる。

同じ大きさの雑音信号がのった、2つの信号が差動増幅回路に入ってきた場合
同じ大きさの雑音信号がのった、2つの信号が差動増幅回路に入ってきた場合
雑音信号は打ち消しあい、信号の差が増幅されるのだ。

 LANでは2本線で信号を送る事で

 2本にのった雑音信号を

 差動増幅回路で除去する

 というわけなのだ。


 2003年、差動回路の話を知ってから、13年かかって到達した。
 といっても、13年間、アナログ回路の勉強をしていたのではなく
13年間、放置した後、突貫工事で勉強したのだ。


 差動増幅回路は色々な場所にも使われているので
知っておくと便利かもしれない。


LAN入門:目次
ストレートケーブルとクロスケーブル LANケーブルのストレートタイプとクロスタイプの違いを書きました。
リピーターハブとスイッチングハブ リピーターハブとスイッチングハブの違いと、全二重通信と半二重通信の話です。
10Base-T以降では、パケット衝突は、実は擬似衝突などを書いています。
社内LANの調査 2005年に、ブラックボックス化した社内LANを解明した話です。
オートネゴーシエーション 10Base-T、100Base-TX、1000Base-Tなどが混在する環境で
どうやって通信制御を行っているのか
その仕組みを書きました。
LANケーブルの規格 CAT(カテゴリー) LANケーブルの規格のCAT(カテゴリー)の違いを書きました。
データ送信とデジタル信号の符号化 LANケーブルを信号が伝わる際、どうやってデータ送信をしているのか。
デジタル信号の周波数を抑えながら、高速で信号送信する技術を書きました。
10Base-T、100Base-TX、1000Base-Tについて書きました。
データリンク層 LAN内のパソコンや通信機器同士の通信はMACアドレスが使われています。
それを司るデータリンク層について書きました。
表皮効果と近接作用 LANケーブル内で起こっている信号減衰の原因が
表皮効果と近接作用である事と
LANケーブルの撚り線が、ノイズ対策なのを書きました。
ツイストペアとノイズ対策 LANケーブルがツイストペア(撚り線)なのはノイズ対策のためです。
その話を書きました。
差動回路とノイズ対策 LANケーブルは8本あり、データ通信は複線で行っています。
差動回路を使ったノイズ対策の話を書きました。
同軸ケーブルの仕組み 昔のLANに使われていた同軸ケーブル。
現在でもテレビのアンテナに接続する線として使われたりしています。
同軸ケーブルの仕組みや特性インピーダンスの話を軽く触れました。
発振回路 クロック信号を作る発振回路の説明です。
簡単なLC型コルピッツ発振回路を使って説明しました。


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